はじめに
前回、私自身のファシリテーションについて、TPチャートの流れを援用しつつ、責任、改善・努力、成果・評価、について振り返ったものをまとめました。今日は理念についてのまとめをしたいと思います。
理念
TPチャート作成において、「TPチャート作成を通して、本人が自分の教育活動について存分に振り返る」場をつくることが重要と考えています。このもとで、ファシリテーションについての理念を考えてみたとき、下記のように整理することができそうです。
誰もが変わりうる・本人自身の気付きがもっとも本人自身を変化させうる
ファシリテーションをする場には必ず参加者がいます。その参加者について、これはTPチャート作成WSに限りませんが、学生でも教員でも誰でも「変わりうる」存在と、まず、考えています。ただ、誰かがその人を変えるのではなく、その人自身の力でしか変わらない、とも思っています。また、特にTPチャートの参加者の場合、「本人が気付いたり、考えたりしたことがもっとも本人自身を変化させうる」と考えています。したがって、「本人が自ら変化してもらう」ために私はファシリテーションをしています。
その時間を費やすに値するのが良い場
ファシリテーションをしている場には多くの参加者が集い、時間をこの場に費やします。TPチャートの研修は、もっとも短いもので90分ありますし、場にくる往復の時間も含めれば相当の時間を要します。
日頃多忙な方々が、仕事をするにも休むにも使える貴重な時間をこの研修に費やす―時間を使って良かったと思ってもらうような場をつくることがファシリテーションを行う者の責任だと考えています。
そのためには、TPチャートの作成の場合は、TPチャートをつくることに意義を見出し、没頭してもらうことがまず重要ですし、さらには、参加者がここでしかできないことを考えたり感じたりするため、デザインしたことをよりよい形で実現するのがファシリテーションです。
教育は未来をつくっていく人材を育てることに直接携わる尊い職業の1つだと思っています。参加していただく先生方が背負っている現場の重大さを考えると、お一人お一人に敬意を評しつつ、ぜひこの時間をご自身のために使って欲しいと思いますし、先生方の知恵や実践が整理され自覚され、そして相互に伝わる形でそれらが共有されることが、この時間を活かすことになると考えます。
なんでも知ってる黒衣
歌舞伎や人形浄瑠璃など舞台の役者の補助をするのが「黒衣」ですが、TPチャートの作成において、黒衣のように「そこには居ないことになっている者」の状態が、ファシリテーションの目指すところです。TPチャートの各ステップの説明も理想的には、説明する声が心の中で響いているような状態が理想で、「栗田が説明している」と意識されてしまうのは寧ろ振り返りの邪魔です。
自分の振り返りの舞台において、不自由なこと―わからないことは質問をすると、答えが返ってきて疑問が解消され、ただただ自分と向き合う時間になる。付箋に自分の考えたことを書いたり、隣の人とシェアをしていたら、あっという間に2時間経ってたというような状態をつくりだすことがファシリテーションをする上でもっとも重要だと思っています。
*チャートには「黒子」と書きましたが「黒衣」が正確だそうです。
理念について思うこと
以上、ファシリテーションの理念についてまとめました。
以下は理念についての雑感です。
これらを形作る土台には、自分自身の性質も影響していると感じます。まず、できるだけ目立ちたくない。今のFDを専門とし、研修の講師を引き受ける立場からは対極にありますが、元来自分に注目が集まることは苦手です。ただ、講師ではなく「内容」に注目して欲しい、という思いからすると、この性質は同じ方向性を持つので都合がよいと思います。
そして、「自分も不完全であり、一緒に成長したい」ということもあります。「ちょっとは知っていますが、でも成長途上です」という立ち位置ですので、「教える」という立場の参加者あるいは、学生さんを前にしているときにも、一緒に学ぶという意味での同僚性も根本にあるように思われます。かといって、自信なさげに見えては参加者に不安を与えてしまい、この人大丈夫かな、と気持ちを割いていただくことになってしまうので、ファシリテーションの立場としては前向きに一緒に学びます、という気持ちで臨むようにしています。
特にTPチャート作成のファシリテーションの場合、TPの作成における1対1のメンタリング(メンティー(作成者)とメンターの対話の時間)の経験が活かされているように思います。メンターとしてメンティーの深い自己省察を促していくとき、できるだけその人と同じ意識を持つと同時に、かつその人の意識や気持ちを俯瞰的にも把握するような位置にいようと努めます。このときもやはり、自分の気配は消していたほうがよりメンティーが自分の振り返りに集中できますが、この雰囲気を研修の場にもつくろうとしているのが現在のファシリテーションになっている気がしました。
また、TPを知ってまもなく受けた、セルディン先生のメンタリングがその根源にあることにも今回気付きました。穏やかな安心感に包まれている中で自分のことについてあれこれ色々と考えを巡らした経験は、自分の現在を形づくる1つの財産といって良いのかも知れません。
今回はここまで、とさせていただきます。