TPを知る
ここではTP,TPチャート,TSについて紹介します。これらの違いは、成果物の形や分量、リフレクションの深さ、作成に必要な時間です。作成目的に照らして適したものを選んでください。
TP(ティーチング・ポートフォリオ)とは TPチャート(ティーチング・ポートフォリオ・チャート)とは TS(ティーチング・ステートメント)とはTP(ティーチング・ポートフォリオ)とは
TPとは、「自らの教育活動について振り返り、その自らの記述を根拠資料(エビデンス)によって裏付けた厳選された記録」です。
紙媒体のTPは、8-10ページほど本文に根拠資料が伴う形式です。
作成目的
TPの作成目的は、教育の改善と教育業績の可視化の2つです。
TPの作成プロセスにおいて、教育活動の背後にある方針や理念が明確になり、この理念を軸に活動をとらえ直すことで、自分の理念と現実の活動との齟齬や不足について気づきます。そして、これらの解決策を目標として定めることが、改善に向けて一歩となります。
また、成果物としての文書が教育活動を可視化を実現します。TPは理念や方針、方法といった一定の構造を持ち、一貫性をもって教育活動を記述します。単なる事実の列挙ではなく、活動の特徴や優れた点等が自身の言葉で記述されることから教育活動の「質」を扱うことができます。また、根拠資料で裏付けることで、教育業績の評価資料としての公正性を担保します。
TPの構成
TPは、次の項目で構成されます。これらが一貫性をもつよう、自分自身の言葉で記述していきます。
教育の責任(何をやっているのか)
理念(なぜやっているのか)
方針・方法(どのようにやっているのか)
成果(どうだったか)
今後の目標(今後の目標)
目次としては、自分の活動にあうように自由に設定できますし、これら以外の、改善したことや研究に関連する事項等の要素を追加することもできます。
作成方法
日頃の教育活動を挙げてそこで行っている具体的な行動の背後にある理由を考えていくことで自分の理念に気づき、その理念を軸に活動全体を整理して、今後の目標をたてる、というのが作成の大まかな流れです。理念についていきなり考えるのではなく、日頃の活動を振り返るところからスタートします。
丁寧に振り返りを行うTPをつくるには13-17時間程度を要します。
一人でも作成は可能ですが、より深く振り返り、楽に作成するには、短期集中型の作成ワークショップに参加するなどして、メンター(作成支援者)に伴走してもらいながら作成することをおすすめします。詳しくは「つくる」にあるTPに関する説明を参照してください。
活用方法
作成したTPは、次のような活用が考えられます。
・自分の教育改善のガイドとして参照する
・学生に理念の部分などを共有し、よりよい学びの場づくりに活かす
・教育業績の評価資料(採用・昇進)として提出する
・優れた活動を共有(優秀教員賞の選考資料、学科内の情報共有)する
・学外への発信し、社会に対する優れた教育をアピールする
・自分の教育をまとめ、後進に伝える(レガシー・ポートフォリオ)
更新について
改善のためには、1年毎に短期目標を中心に見直すと良いでしょう。
また、新しい授業を担当するなど環境が変わる前後も更新のタイミングです。
さらには、昇進の前後や異動の前後も自分の現在や今後の進む道を自ら定める意味においても、更新すると良い時機といえます。
更新は自分ではなかなかできないものです。更新ワークショップを利用するとよいでしょう。
参考文献
TPについて詳しく知りたい方は、下記をどうぞ。
・大学評価・学位授与機構監訳、栗田佳代子訳、ピーター・セルディン著 (2007)『大学教育を変える教育業績記録』 玉川大学出版部、 388ページ (Peter Seldin (2004) The Teaching Portfolio: A practical guide to improved performance and promotion/tenure decisions 3rd ed. Anker Publishing Company, Inc.)
・栗田佳代子 (2020) 大学教員の教育業績評価の方法としてのティーチング・ポートフォリオ、 大学評価研究、19、55-64
TPチャート
(ティーチング・ポートフォリオ・チャート)とは
TPチャートとは、TPの作成の流れを段階的に取り組めるように整理したワークシートです。もともとは、TP作成の体験を目的として開発されました。
作成目的
TPチャートは教育改善を目的として作成します。
また、作成途上または完成したTPチャートを他者と共有するためのコミュニケーションツールとして用いることで、教育活動を相互に理解したり学び合う場をつくることができます。
構成
TPチャートは、TPと同じ次の項目が枠で仕切られて配置されたワークシートです。
・責任
・理念
・方針・方法
・成果・評価
・(改善・努力)
・目標
各項目に、具体的な要素を付箋に記入して貼っていきます。
作成方法
一人でも作成は可能ですが、より深く振り返り、楽に作成するには、作成ワークショップへの参加をおすすめします。詳しくは「つくる」にあるTPチャートに関する説明を参照してください。
活用方法
作成したTPチャートは、たとえば次のように活用できます。
・自分の教育改善のガイドとして参照する
・学生に理念の部分などを共有し、よりよい学びの場づくりに活かす
・TPを作成するための下準備としてざっくり自分の活動を振り返る
・TPチャートを他者と説明しあうことで教育理念や具体的方法についての視野を広げたり、相互の教育の理解を深める
更新について
更新のタイミングは基本的にTPと同じですので詳細はTPの更新の部分を参照してください。
TPチャートは1枚のワークシートですから、TPよりも手軽に見直すことができます。特に青い付箋に示された「短期目標」が実現できていれば、黄色い付箋に張り替えるなどして更新します。
TPと同じく更新は自分ではなかなかできないものです。TPチャートの作成ワークショップにあらためて参加したり、他者と一緒に更新するとよいでしょう。
参考文献
TPチャートについて詳しく知りたい方は、下記をどうぞ。
・栗田佳代子、吉田塁 (2022) 教育活動の振り返りを目的としたティーチング・ポートフォリオ・チャートおよび作成研修の開発と評価, 高等教育開発、1、 19-27。
・栗田佳代子・吉田塁(2021)「リフレクションを可視化するティーチング・ポートフォリオ・チャート作成講座」医学書院
・栗田佳代子、 吉田塁、大野智久 (2018) 「教師のための『なりたい教師』になれる本!」学陽書房
TS(ティーチング・ステートメント)とは
TSとは、TPの簡易版です。
紙媒体のTSは、1-3ページほどの分量ですので、分量が少ない分、TPよりは作成の労力を軽くすることができます。
このTSに根拠資料が伴えば、TPと同じような機能を持たせることが可能です。すべての教員に速やかに作成してもらいたい、というときにはTPよりもTSの導入が現実的です。
作成目的
TPと同じく、教育の改善と教育業績の可視化にあります。
作成プロセスにおいて、自分の活動を振り返り、大切なこと(理念)を自分で見出します。この活動を捉え直すプロセスにおける様々な気づきや今後の目標設定が改善につながります。また、成果物として形になった文書が教育業績を可視化を実現します。
構成
TSは、TPと同じく次のような項目で構成されます。これらが一貫性をもつよう、自分自身の言葉で記述していきます。
・責任
・理念
・方針・方法
・成果・評価
・(改善・努力)
・目標
作成方法
TPチャートが作成済であることを前提とし、このTPチャートを文章化します。
一人でも作成は可能ですが、より深く振り返り、楽に作成するには、一日の作成ワークショップに参加するなどして、メンター(作成支援者)に伴走してもらいながら作成することをおすすめします。詳しくは「つくる」にあるTSに関する説明を参照してください。
活用方法
作成したTSは、TPと同様の活用が考えられますが、分量が少ないため、厳密な業績評価資料としては活用するには不十分かも知れません。一方、学外発信のためには読みやすい分量でしょう。
・自分の教育改善のガイドとして参照する
・学生に理念の部分などを共有し、よりよい学びの場づくりに活かす
・教育業績の評価資料(採用・昇進)として提出する
・優れた活動を共有(優秀教員賞の選考資料、学科内の情報共有)する
・学外への発信し、社会に対する優れた教育をアピールする
更新について
更新のタイミングは基本的にTPと同じですので詳細はTPの更新の部分を参照してください。
参考文献
TSに関する文献はまだありません。